3.生前贈与①

●1人当たり年間110万円までの贈与は非課税です。

●同じ金額の財産をもらうなら、相続税より贈与税の方が税率が高いです。

名義預金は贈与とは認められません。

暦年課税による生前贈与

 相続財産を減らせば、それだけ課税対象額が減り、節税につながります。そこで有効なのが、生前に贈与する方法(生前贈与)です。


 個人から個人への贈与には、贈与税がかかります。贈与税には、暦年課税相続時精算課税の2つの課税方式があります。ここでは、一般的な課税方式である暦年課税による贈与について説明します。


 暦年課税は、1年間に贈与された財産の合計をもとに贈与税額を計算する方法です。1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が、110万円の基礎控除額を超える場合に、その超える部分に対して贈与税がかかります。


 相続税と比較すると、贈与税の基礎控除額は少なく見えます。また、税率を比較しても、同じ金額を渡すのであれば相続税の方がはるかに有利です。


 しかし、贈与も使い方次第では、十分な節税効果を得ることができます。「贈与は何回でもできる」という点です。


 相続税の基礎控除額は、相続財産全体に対して1回限りであるのに対して、贈与税の基礎控除額は、「もらう1人あたり110万円」で、それぞれの人が「年間」で利用できます。つまり、1人あたり年間110万円までであれば、何人に贈与しても無税です。あるいは、1人の人に毎年110万円ずつ10年間贈与し、トータルで110万円あげても、贈与税はかかりません。

贈与税を払う方が得な場合

 110万円の基礎控除額を超えてある程度の贈与税を払っても、その税率が相続税の実効税率より低ければ、結果的に得になります。


 例えば、310万円までの贈与は、最低税率の10%で贈与できます(110万円の基礎控除額を超えた200万円分に、10%の贈与税がかかります)。


 そこで、相続人3人に310万円ずつ10年間贈与すると、贈与税は600万円になります。仮に、贈与前の財産が3億円だった場合、同じ条件で贈与をしなかった場合と比べると、822万5,000円の節税になります。


 暦年課税による贈与は、少ない金額を多くの人に何年にもわたって行うのがより効果的です。


 なお、一度にたくさんの財産を贈与したい場合には、蔵族時精算課税も選択肢としてあります。

贈与の証明方法と名義預金

 贈与を相続税の軽減のために活用するには、その財産の受け渡しが、「贈与」と認めなければなりません。生前贈与は、お互いに「あげる」「もらう」という双方の合意のもとに成り立つ契約行為です。合意がないと、贈与とは認められません。


 そこで、贈与の証明が必要になっていきます。一番よい方法は、契約書を交わすことです。そして、金銭の場合は、銀行振込みにして証拠を残し、株式の場合は必ず名義の書き換えをします。


 さらに、贈与財産を「もらった」という実態も必要です。例えば、親が子ども名義の預金口座を作り、毎年贈与税の基礎控除額内で積み立てていても、通帳や印鑑を親が管理していると「名義預金」と考えられて、贈与とは認められません。親子であっても契約書を交わし、通帳や印鑑などは子どもが管理しましょう。


 また、妻が夫の給料から自分名義の預金にへそくりを移した場合も、実際には「あげた」「もらった」がないため、夫の財産のままであるとされ、贈与にはなりません。

定期贈与と連年贈与

 例えば、贈与をする時に「1,000万円を贈与する」という取り決めをして、毎年100万円×10年の分割払いにした場合(定期贈与といいます)、「定期金に関する権利(10年わたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利)」の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。


 一方、取り決めをせずに、結果的に毎年100万円を10年にわたり贈与した場合、贈与税は掛かりません。後者のように、単に毎年繰り返し贈与することを連年贈与といいます。


 贈与を行う際は、あくまでも、1回1回独立した贈与として実行することをおすすめします。税務署からあらぬ疑いをかけられないためにも、贈与の都度契約書を交わすことが重要です。さらに、贈与日や贈与額を毎年変えるなど工夫があってもよいでしょう。

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