10.寄与分

●事業や介護による多大な貢献があれば、寄与分を主張できます。

●ただし、寄与分の正当性を認めてもらうことは難しいです。

寄与分の対象

特別受益が生前贈与などを相続分から差し引く制度である一方、寄与分は相続分を増やすことができる制度です。
特別受益も寄与分も、相続人のみが対象です。


生前、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人には、遺産分割による相続分に加えて、その貢献の度合いに応じた相続分をプラスできます。
この増加分が、「寄与分」です。


法定相続分に従って相続を行いますと、自営業の親の仕事をずっと無償で手伝ってきた長男と、そうでない次男も同じ割合で財産を相続することになります。
親の財産形成への貢献度に関係なく、2人がもらえる金額が同じではバランスが良くないといえます。
寄与分も特別受益と同様に、相続人の不公平を是正するための制度です。


寄与分は主に次のような相続人が対象になります。

①被相続人の事業に関する労務の提供をした人
②被相続人の事業に関する財産上の給付をした人
③被相続人の療養看護をした人


ただし、この3つのいずれかに当てはまれば寄与分が認められるわけではありません。
例えば、相続人がつきっきりで療養看護をすることで、医療費や看護費用を避けることができたなど、相続財産の維持や増加に貢献していなければなりません。


なお、寄与分は相続人しか認められていません。

そのため、相続人でないおじやおばなどが事業の資金援助などの貢献をしても、寄与分を主張することはできません。
ただし、相続人と同一視できる事情や身分関係(配偶者など)がある場合、相続人の寄与行為として認められる場合があります。

寄与分の適正金額と決め方

貢献度に応じて寄与分を決めるといいましても、その金額を決めることは困難です。
寄与分が認められるためには、被相続人への「特別な貢献」が必要です。
夫婦や親子の通常の手伝いなどは、対象になりません。

介護も親子の扶養義務の範囲内と考えられ、寄与分と認められないことが多いのが現状です。


寄与分は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。
しかし、明確な基準がない上に、1人の寄与分が認められれば、当然他の人の相続分が減りますので、全員が納得できるように話し合いで決めることは非常に難しいものがあります。


話し合いがうまくまとまらない場合は、寄与者(寄与分を主張する人)が、家庭裁判所へ申し立てを行います。
調停などで第三者を交えて解決を図ることになります。

介護に対する寄与分

近頃は、介護に関する家族間のトラブルが多くなっています。
介護の苦労や貢献度は、他の人にはなかなか伝わりにくい側面があります。
また、実際にかかった介護費用の金額を確定することは難しく、相続の話し合いの時にもめる大きな要因の一つです。


特に、子どもが親の介護をする際に、介護費用を親の預金口座から使いますと、後に他の相続人から用途や金額について疑いをもたれることもあります。

「介護費用と言っておいて、他の事に使ったのではないか」、「寄与分を主張するなどずうずうしい」などと言われてしまうこともあります。


寄与分を主張する場合は、介護にかかった時間を時給で換算してみる、外部の施設に任せたら費用はどれくらいかかったのかを試算するなどをおすすめします。

介護にかかった費用なども細かくメモしておくなどして、他の相続人に納得してもらうしかありません。

遺言を残すことが効果的

介護で貢献してくれた子どもがいる場合、その労力に感謝して、親が生前に対策をされることをおすすめします。
そのためには、遺言を残すことが効果的です。
被相続人の意思を明確にした遺言を作成しておくことで、相続人同士の無用な争いを防ぐことができます。

 

また、長男の嫁など相続人以外の人が義父や義母を介護するケースも多くあります。
相続人でない人は、残された財産を相続することも、寄与分の請求もすることはできません。
ただ、過去の判例では、相続人の妻の寄与行為を「相続人の寄与分」として認められたケースもあります。
妻が夫(相続人)に代わって親を介護したのだから、その行為は相続人の行為とみなすという考えからです。

 

しかし、原則として寄与分を主張できるのは、相続人だけです。
また、相続人であっても、特に介護の場合には、寄与分が認められにくいが現状です。
そこで、介護をしてくれた相手に財産を渡したい場合は、被相続人が遺言でその意思を表明することをおすすめします。

その他、生前贈与で財産を渡したり、あるいは養子縁組という方法もあります。
養子縁組をすることで、他の子どもと同様に、相続人である子どもとしての権利を持つことができます。

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