4.遺言の基本

●遺言は法定相続より優先されます

●不公平な内容の遺言になってしまう場合は付言事項で理由を伝えます

法的効力が遺言事項にはある

遺言に書くことによって、法的効力が生じる内容のことを遺言事項といいます。

遺言事項は法律で定められています。

相続の法定事項の修正に関する事項や、財産処分に関する事項などがあります。

 

具体的には、相続分の指定や遺産分割方法の指定、遺贈に関することなどです。

他にも遺言に記載すると法的効力を持つ事項は様々あります。

 

反対に、例えば「長男は妻と同居すること」、「骨は散骨してほしい」などは遺言事項に該当しません。

ただ、遺言に書くこと自体は自由となっています。

それらの内容に法的効力はありませんが、相続人が意思を汲んで実行してくれる可能性はあります。

遺言を残してトラブルのない相続を

遺言は、財産内容の処分などについて、遺言者の希望を実現させるためのものです。

そして、残された家族のトラブル(争族)を防ぐ目的もあります。

相続財産を「誰に」、「どのように残すか」を、遺言者があらかじめ決めておくことによって、相続人間の争いを防ぎます。

 

例えば、子供のいない夫婦で夫が亡くなった場合、すべての財産が妻のものになるのではなく、被相続人の親または兄弟姉妹にも相続する権利が生じます。

しかし、この場合で「配偶者にすべての財産を相続させる」という遺言があれば、相続財産のすべてが配偶者のものになります(親が相続人の場合は親に遺留分の権利あり)。

 

他にも遺言が必要なケースを下記に挙げますので、掲載していないケースでも、少しでもトラブルの心配がありましたら、遺言を作成されることをおすすめします。

 

また、遺言の内容は、相続人間に不公平を生むこともあります。

その場合は、そのような財産の分け方にした理由を付言事項という形で遺言書に書き添えるとよいでしょう。

 

しかし、付言事項に法的効力はありません。

ただ、遺言者がなぜこのような分け方にしようと考えたのかがわかると、財産を引き継ぐ側も冷静に受け止めやすくなります。

付言事項を書くことですべての相続トラブルが防げるわけではありませんが、一定の効果はあるでしょう。

遺言で法的効力が生じる内容(遺言事項)

●相続分の指定

 →法定相続分と異なる指定ができます。

●遺産分割方法の指定

 →誰に何を相続させるかなど具体的に指定できます。

●第三者への遺贈

 →相続人以外の人に財産を遺贈できます。

 

その他の遺言事項

区分 項目 内容

相続や財産の処分に関すること

特別受益の持戻しの免除 生前贈与を相続分に反映させない旨の意思表示ができます

遺留分減殺方法の指定

遺留分を侵害する遺贈が複数ある場合、減殺の順序や割合を指定できます

法定相続人の排除

またはその取消

相続させたくない法定相続人がいる場合、相続の権利をはく奪できます

特定団体への寄付

社会に役立てるために公益法人に遺贈することや、自ら公益法人を設立してそこへ寄付することができます
遺産分割の禁止 死後5年以内の期間で遺産の分割を禁止できます

共同相続人間の

担保責任の指定

ある相続人が取得した財産に欠陥があった場合、法律では他の共同相続人がその損失を補うと規定していますが、その規定を変更できます
信託の設定 信託銀行などに信託を依頼できます

身分に関することなど

子供の認知 子供の認知を行うことができます

未成年後見人

または

後見監督人の指定

自分の死亡により、親族がいなくなる未成年の子について、後見人とその監督人を指定できる

遺言執行者の指定

相続手続きを確実に行うための遺言執行者を指定できます

祭祀継承者の指定

墓や仏壇などの承継者を指定できます

生命保険金の

受取人の変更

被保険者の同意を受けた上で、保険金受取人を変更できます

 

効果的な遺言を作成するためのポイント

①相続財産と相続人をきちんと調べる

 財産の一部についてだけ遺言することもできますが、中途半端な遺言はトラブルの元

 になります。

 財産をしっかり調べ、相続人が混乱しない遺言にしましょう。

 

②遺留分に配慮して遺言の内容を決める

 相続人には、最低限これだけはもらえるという遺留分があります。

 特定の相続人の遺留分を侵害する相続分の指定は、トラブルの元になりますので、

 十分配慮しましょう。

 

③誰に何を渡すか具体的に指定する

 「Aに株券3,000株を」など、具体的に指定するほうが、遺産分割がスムーズになり

  ます。

 「財産の○分の1」という相続割合の指定ですと、誰が何をもらうか話し合いで決め

  ないといけなくなります。

 

④遺言執行者を指定する

 遺言を確実に実現するには、遺言執行者を指定されることをおすすめします。

 誰を指定するかは、遺言にも書いておきましょう。

 

⑤決められた様式で不備のないように作成

 遺言は、法律で定められたルールにのっとって書きましょう。

 不備がありますと、無効になりますのでご注意ください。

 

⑥不公平な内容になるときは理由を添える

 法的効力はありませんが、被相続人の思いを遺言に書くこともできます(付言事 

 項)。

 特に不公平な内容にある場合は、付言事項に思いを記すことで、無用なトラブルを避

 けられることもあります。

遺言を作成してほしいおすすめのケース

①自宅以外の財産がほとんどない

 現金のように簡単に分けることができないため、もめやすい傾向にあります。

 →誰が不動産を相続するか、あるいは処分してほしいか、遺言に記載します。

 

②特定の子どもに財産を多く残したい

 遺言がないと、子ども同士はみな同じ相続分になります。

 →遺言で誰に何を渡すかを指定します。理由を遺言に添えて、思いを理解してもら

  います。

 

③相続人が多い

 人数が多いほど、遺産分割でもめやすい傾向にあります。

 誰に何を渡すか遺言で具体的に指定するようにします。

 

④配偶者はいるが、子どもはいない

 配偶者と被相続人の父母または兄弟姉妹が相続人になるため、財産のすべてを配偶者

 に残せません。

 →配偶者に全額を渡したい場合は、遺言にその旨を明記します。

 

⑤事実婚による配偶者がいる

 長年生活を共にしていても、相続人ではありませんので財産を引き継げません。

 →財産を残すためには籍を入れるか、遺言で遺贈します。


⑥再婚した配偶者に連れ子がいる

 配偶者の連れ子は養子縁組をしない限り、相続人になれません。

 →財産を遺言で遺贈するか、養子縁組をします。


⑦元配偶者にも現在の配偶者にも子どもがいる

 それぞれ法定相続分は同じですが、一方が納得しないことがあります。

 →法定相続分通りに分けるとしても、遺言を作成して相続人の思いを添えます。


⑧子どもの妻に介護してもらっている

 子供の妻は相続人ではないため、財産をもらえません。

 →財産を遺言で遺贈します。


⑨生前に多額の援助をしている子どもがいる(特別受益)

 特別受益の持戻しの制度がありますが、相続人同士の話し合いでは、わだかまりが残

 ります。

 →特別受益分を考慮した遺言を作成します。


かわいがっているペットがいる

 自分の死後、ペットが十分な世話を受けられない可能性があります。

 →遺言により、ペットを世話する代わりに財産を渡すという負担付遺贈行いま

  す。


⑪事業を継ぐ子どもに、財産の大部分を渡したい

 事業に必要な財産が他の相続人に分散すると、後継者が事業を続けられなくなること

 もあり得ます。

 →事業の承継者に何を渡すかを遺言で具体的に指定します。


⑫暴力をふるう子どもに財産を渡したくない

 他の相続人と同じような財産を相続することになります。

 →条件は厳しいですが、遺言により相続人の権利を奪えることがあります

 (相続人の廃除)。

こちらのページもあわせてどうぞ